高年齢労働者の労働災害防止対策に関する検討会 報告書

労働基準法

公表日:令和7年(2025年)12月26日

発行元:厚生労働省 労働基準局 安全衛生部

1. はじめに:背景と目的

1-1. 検討の背景

 わが国では少子高齢化が急速に進展しており、労働力不足を補うためにも、高年齢者が健康で安全に働き続けられる環境の整備が急務となっている。しかし、労働災害の発生状況を見ると、60歳以上の労働者の死傷災害発生率は若年層に比べて高く、特に「転倒」や「腰痛」などの行動災害が顕著である。

 2025年(令和7年)には団塊の世代が75歳以上となるなど高齢化が一層進む中、従来の「エイジフレンドリーガイドライン(令和2年策定)」の内容をさらに強化・具体化し、実効性のある労働災害防止対策を講じる必要がある。

1-2. 報告書の目的

 本報告書は、高年齢労働者の身体的機能の低下等の特性を踏まえ、事業者が実施すべき具体的な措置、国による支援のあり方、および労働者自身の意識改革について検討を行い、今後の政策展開(法令改正や新ガイドライン策定)の基礎とすることを目的とする。

2. 高年齢労働者の労働災害発生状況と課題

2-1. 労働災害の現状

 全体傾向:労働災害による死傷者数は長期的に減少傾向にあったが、近年は増加または横ばいで推移している。その中で、高年齢労働者の占める割合は年々増加している。

 事故の型: 「転倒」が最も多く、次いで「墜落・転落」、「動作の反動・無理な動作(腰痛など)」が多い。これらは高年齢者の身体機能(平衡感覚、筋力、視力など)の低下と密接に関連している。

 重篤化のリスク:高年齢者は、若年層と同じような事故であっても、骨折などにより重傷化しやすく、休業期間が長期化する傾向がある。

2-2. 課題

 身体機能低下への認識不足:労働者自身が「自分はまだ若い」と過信し、加齢による機能低下を自覚していないケースが多い。

 職場環境の未整備: 従来の設備や作業手順が若年層を基準に作られており、高年齢者にとって危険や負担が大きいまま放置されている。

 個体差の拡大:加齢に伴い、個人の健康状態や体力のばらつき(個人差)が大きくなるため、一律の管理では不十分である。

3. 今後の対策の基本的方向性(ハード・ソフト両面からの対策)

 事業者は、高年齢労働者が安全に働けるよう、以下の視点を持って「ハード面の対策(設備改善)」と「ソフト面の対策(管理・教育)」を一体的に推進する必要がある。

3-1. 設備・環境の改善(ハード対策)

 高年齢労働者の身体的負担を軽減し、ミスや不注意があっても事故につながらない環境を作る。

転倒・転落防止:

 通路の段差解消、スロープの設置。

 階段や通路への手すりの設置、滑りにくい床材への変更。

 照度の確保(加齢による視力低下への配慮)。

 つまずきの原因となるコード類や障害物の整理整頓の徹底。

身体負担の軽減:

 重量物取り扱い作業における台車、リフト、パワーアシストスーツ等の活用。

 中腰やひねり動作などの無理な姿勢を強いる作業工程の見直し。

 作業台の高さ調整(視距離の調整含む)や、拡大鏡・大型モニターの導入。

情報機器作業への対応:

 パソコン等の画面文字サイズの調整、適切な眼鏡の使用推奨。

 グレア(反射)防止や適切な照明環境の確保。

3-2. 作業管理・健康管理(ソフト対策)

 個々の労働者の特性に応じたきめ細やかな管理を行う。

作業手順の見直し:

 高年齢者の特性(俊敏性の低下等)を踏まえ、ゆとりのある作業スピードや納期設定を行う。

 マニュアルの文字を大きくし、図解を多用するなど、視認性と理解度を高める。

 注意力や集中力の持続時間を考慮し、適度な休憩を挟むサイクルにする。

健康管理と体力チェック:

 定期健康診断の結果に基づき、就業上の配慮(配置転換、作業制限等)を確実に行う。

 「身体機能チェック(エイジフレンドリーチェック)」**の実施を推奨し、労働者自身にバランス能力や筋力の現状を気づかせる。

 基礎疾患(高血圧、糖尿病等)を持つ労働者への治療と仕事の両立支援。

相談体制の整備:

 高年齢者が身体の不調や、職場の危険箇所、負担に感じる業務について気軽に相談できる窓口を設置する。

 産業医や衛生管理者との連携強化。

4. 労働安全衛生教育のあり方

 高年齢労働者に対する教育は、単なる知識の伝達にとどまらず、行動変容を促す工夫が必要である。

「気付き」を促す教育:

 加齢に伴う身体機能(視力、聴力、平衡感覚、筋力)の変化について客観的なデータを示し、「昔とは違う」ことを自覚させる。

 自身の体力測定結果と、作業に求められる身体要件とのギャップを認識させる。

効果的な教育手法:

 文字ばかりの教材ではなく、映像や写真、視聴覚教材を積極的に活用する。

 一度きりの教育ではなく、繰り返し実施する(リフレッシュ教育)。

 双方向の対話型教育を取り入れ、本人の納得感を高める。

5. 事業者・労働者・国の役割

5-1. 事業者の役割

 トップマネジメントが「高年齢者の安全確保」を経営課題として明確に位置づける。

 リスクアセスメントを実施し、高年齢者にとってのリスクを特定・低減する。

 個々の労働者の健康状態や体力に応じた「適正配置」を行う。

5-2. 労働者の役割

 自身の健康状態や身体機能の低下を客観的に把握し、無理のない作業行動を心がける。

 健康診断や体力チェックを積極的に受診し、健康保持増進(運動習慣、食生活改善等)に努める。

 ヒヤリハット体験などを共有し、職場の安全活動に参加する。

5-3. 国の役割

 「エイジフレンドリー補助金」等の支援制度を拡充・周知し、中小企業の設備改善を後押しする。

 好事例の収集・展開を行い、業種ごとの具体的な対策マニュアルを整備する。

  高年齢労働者の労働災害防止に関する法的枠組みの整備(指針の改正等)を進める。

6. まとめ・今後の展開

 本報告書は、高年齢労働者が意欲と能力を発揮し続けられる社会を実現するための基盤となるものである。

 今後は、本報告書の内容を踏まえ、厚生労働省において関係指針の改正や、周知啓発キャンペーン(「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」の普及等)が強力に推進される予定である。

 各事業場においては、単に「高齢者を雇用する」だけでなく、「高齢者が安全に働ける環境(エイジフレンドリーな職場)を作る」ことが、企業の持続的な成長と法的リスク回避のために不可欠であることを再認識すべきである。

【次に取るべきアクションの提案】

 報告書の内容を踏まえ、まずは以下の3点から着手することをお勧めします。

1. 職場巡視(リスクアセスメント):高齢者の視点(「暗い」「滑る」「文字が見にくい」)で職場を再点検する。

2. 身体機能チェックの導入:厚生労働省が提供しているチェックリスト等を活用し、従業員に自身の体力年齢を自覚してもらう機会を作る。

3.補助金の確認:設備改善が必要な場合、「エイジフレンドリー補助金」の対象となるか確認を行う。