令和3年職場における熱中症による死傷災害の発生状況(令和4年1月14日時点速報値)
厚生労働省は、令和3年「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」(令和4年1月14日時点速報値)を次のとおり結果を公表しました。
1 職場における熱中症による死傷者数の状況(2012~2021年)
職場での熱中症による死亡者及び休業4日以上の業務上疾病者の数(以下合わせて「死傷者数」という。)は、令和3年(2021年)に547人となった。うち死亡者数は20人となっている。過去3年の状況と比較すると、死傷者数、死亡者数ともいずれの年よりも下回った。過去10年間(2012~2021年)の発生状況をみると、年平均で死傷者数638 人、死亡者数21人となっており、直近3か年における死傷者数は、過去10 年間の36.6%を占めていた。
職場における熱中症による死傷者数の推移(2012年~2021年) (人)
2012 年 | 2013 年 | 2014 年 | 2015 年 | 2016 年 | 2017 年 | 2018 年 | 2019 年 | 2020 年 | 2021 年 |
440 (21) | 530 (30) | 423 (12) | 464 (29) | 462 (12) | 544 (14) | 1,178 (28) | 829 (25) | 959 (22) | 547 (20) |
※( )内の数値は死亡者数であり、死傷者数の内数である。
2 業種別発生状況(2017 ~2021年)
過去5年間(2017~2021年)の業種別の熱中症の死傷者数をみると、建設業、次いで製造業で多く発生していた。また、主な業種について、死傷災害に占める死亡災害の割合を調べてみると、全業種平均の2.7%に対し、農業6.1%、建設業5.3%、警備業3.0%などとなっていた。
2021年の死亡災害については、建設業において11件と最も多く発生しており、また、過去5年間においても死亡災害の最多業種となっている。死傷者数については、建設業128件、製造業85件となっており、全体の約4割がこれら2つの業種で発生していた。
なお、死亡災害に関する製造業の内訳は造船業、その他の製造業-その他であった。
熱中症による死傷者数の業種別の状況(2017~2021年) (人)
業種 | 建設業 | 製造業 | 運送業 | 警備業 | 商業 | 清掃・と畜業 | 農業 | 林業 | その他 | 計 |
2017年 | 141 (8) | 114 (0) | 85 (0) | 37 (2) | 41 (0) | 32 (1) | 19 (2) | 7 (0) | 68 (1) | 544 (14) |
2018年 | 239 (10) | 221 (5) | 168 (4) | 110 (3) | 118 (2) | 81 (0) | 32 (1) | 5 (0) | 204 (3) | 1,178 (28) |
2019年 | 153 (10) | 184 (4) | 110 (2) | 73 (4) | 87 (1) | 61 (0) | 19 (0) | 7 (0) | 135 (4) | 829 (25) |
2020年 | 215 (7) | 199 (6) | 137 (0) | 82 (1) | 78 (2) | 61 (4) | 14 (1) | 7 (0) | 166 (1) | 959 (22) |
2021年 | 128 (11) | 85 (2) | 59 (1) | 65 (1) | 61 (3) | 28 (0) | 14 (2) | 7 (0) | 100 (0) | 547 (20) |
計 | 876 (46) | 803 (17) | 559 (7) | 367 (11) | 385 (8) | 263 (5) | 98 (6) | 33 (0) | 673 (9) | 4,057 (109) |
※ ( )内の数値は死亡者数で内数である。
3 月・時間帯別発生状況(2017~2021年)
(1)月別発生状況
2017年以降の月別の熱中症の死傷者数をみると、全体の8割以上が7月及び8月に発生していた。また、6月から9月における月別の死傷者数に占める死亡者数の割合は7月、8月、9月の順に高かった。2021年の死亡災害は5月から8月に発生し、5月は1名、7月は7名、8月は12名が死亡しており、年内の死亡者数に占める月別死亡者数の割合をみると2020年に比べ7月の発生割合が高かった。死傷災害にも同様の傾向が見られた。
熱中症による死傷者数の月別の状況(2017~2021年) (人)
5月以前 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月以降 | 計 | |
2017年 | 19 (0) | 25 (0) | 264 (9) | 222 (5) | 13 (0) | 1 (0) | 544 (14) |
2018年 | 19 (0) | 60 (2) | 697 (17) | 366 (8) | 31 (1) | 5 (0) | 1,178 (28) |
2019年 | 30 (0) | 45 (1) | 177 (5) | 472 (15) | 97 (3) | 8 (1) | 829 (25) |
2020 年 | 18 (1) | 85 (0) | 115 (4) | 651 (16) | 84 (1) | 6 (0) | 959 (22) |
2021 年 | 11 (1) | 39 (0) | 208 (7) | 263 (12) | 20 (0) | 6 (0) | 547 (20) |
計 | 97 (2) | 254 (3) | 1,461 (42) | 1,974 (56) | 245 (5) | 26 (1) | 4,057 (109) |
※ 5月以前は1月から5月まで、10月以降は10月から12月までを指す。
※ ( )内の数値は死亡者数で内数である。
(2)時間帯別発生状況
2017年以降の時間帯別の死傷者数をみると、15時台が最も多く、次いで14時台が多くなっていた。なお、日中の作業終了後に帰宅してから体調が悪化して病院へ搬送されるケースも散見された。
熱中症による死傷者数の時間帯別の状況(2017~2021年) (人)
9時台以前 | 10 時台 | 11 時台 | 12 時台 | 13 時台 | 14 時台 | 15 時台 | 16 時台 | 17 時台 | 18 時台以降 | 計 | |
2017年 | 47 (0) | 41 (1) | 67 (3) | 33 (1) | 51 (0) | 56 (1) | 82 (2) | 69 (4) | 35 (2) | 63 (0) | 544 (14) |
2018年 | 114 (5) | 103 (1) | 124 (1) | 80 (4) | 79 (1) | 155 (4) | 154 (4) | 141 (6) | 82 (0) | 146 (2) | 1,178 (28) |
2019年 | 92 (1) | 69 (3) | 93 (2) | 56 (1) | 75 (4) | 109 (6) | 114 (3) | 94 (0) | 55 (3) | 72 (2) | 829 (25) |
2020年 | 104 (2) | 102 (3) | 119 (0) | 86 (3) | 73 (4) | 116 (3) | 124 (2) | 92 (4) | 61 (0) | 82 (1) | 959 (22) |
2021年 | 47 (0) | 55 (1) | 72 (3) | 53 (4) | 44 (3) | 62 (3) | 71 (0) | 59 (3) | 36 (3) | 48 (0) | 547 (20) |
計 | 404 (8) | 370 (9) | 475 (9) | 308 (13) | 322 (12) | 498 (17) | 545 (11) | 455 (17) | 269 (8) | 411 (5) | 4,057 (109) |
※ 9時台以前は0時台から9時台まで、18時台以降は18時台から23時台までを指す。
※ ( )内の数値は死亡者数で内数である。
4 2021年の熱中症による死傷災害の特徴
(1)WBGT値の実測
2021年の死亡災害20件のうち、日頃からWBGT値の実測が行われていたことが確認された事例は5件のみであった。
(2)暑熱順化の不足が疑われる入職直後の発症
2021年の死亡災害20件のうち、入職後間もない時期の発生が少なくとも8件、そのほか4日以上の休暇後の発生が少なくとも1件含まれていた。
(3)屋内作業での発症
2021年の死傷災害の21.9%は明らかに屋内で作業に従事していたと考えられる状況下で発生していた。業種別の屋内災害の割合は、製造業で約45%、農業で約36%となっており、熱中症は、必ずしも屋外での作業でのみ発症しやすいわけではないことに留意が必要であると考えられる。
屋内作業においては、炉の近傍など特定の熱源から近いところでの作業での発生がみられる。また、特定の熱源がない場合も、高温多湿と考えられる室内環境において多く発生していた。室内の冷房設備の故障時や、外気導入後の冷却が不十分な状況下で熱中症を発症したとする事例も見られた。
(4)熱中症の発症と年齢と関係
年齢階級別に死傷年千人率は図のとおりであった。最も高い65歳以上における死傷年千人率は、最も低い25~29歳の約3倍であった。
(5)熱中症発症時の服装
死傷災害の中には、熱中症発症時に通気性の悪い衣服を着用していた事例が見られた。アスベスト除去作業で着用する防護服など、通気性の悪い衣服(令和4年「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」実施要綱の別紙表2参照)については、首からの体温の放熱を妨げるなど深部体温を上昇させることから、熱中症予防のためWBGT基準値の補正が必要であると考えられる。
(6)熱中症発症者に対する対応や発見の遅れ
熱中症発症者の中には、体調不良を訴え、休憩させた際に周囲の目が行き届かず、周囲が気づいたときには容態が急激に悪化していたり、一人作業をしていて倒れているところを発見されたりと、熱中症発症から救急搬送までに時間がかかっていると考えられる事例も複数あった。
一方で、被災者の自覚症状からすぐに病院に行っている事例では、休業見込期間が比較的短い傾向が見られた。その他、医療機関での診察を受けて快方に向かったものの、帰宅後に悪化し、重症化した例も見られた。
(7)熱中症を原因とする二次災害
熱中症の発症が、二次災害の発生につながる事例も見られた。熱中症により意識を失って転倒し、頭部や肩を強く打った事例、車両の運転中に熱中症を発症し交通事故につながった事例などが見られた。